むるむる ブログ

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2026年7月29日、早朝6時。私は高松駅に立っていた。
みどりの窓口はまだ閉まっている。改札前には人もまばら。

それでもこの時間でないといけない理由があった。今日の目的地、坪尻駅に降り立つためには、この早朝の列車に乗るしかないのだ。


坪尻駅とは何者か

坪尻駅は、JR土讃線の無人駅です。徳島県三好市、香川県との県境に近い山中に位置しています。

周囲に民家は一切なく、駅へのアクセスは山道のみ。車道は通じておらず、最寄りの集落まで徒歩30分かかります。秘境駅ランキングの常連として知られ、テレビや漫画にも取り上げられてきた、「秘境駅の中の秘境駅」です。

そしてこの駅には、もう一つの顔があります。スイッチバック式の駅構造です。

土讃線は讃岐山脈を越えるために急勾配が続きますが、坪尻駅は標高272メートルの谷底に位置しています。急坂の途中に駅を設けることができないため、本線から分岐した引き込み線の先にホームが設けられており、普通列車はスイッチバックで駅に出入りします。特急列車はこの引き込み線には入らず、本線をそのまま通過していきます。

昭和4年に信号場として開設され、昭和25年に駅に昇格、昭和45年に無人化されています。


坪尻駅に「降りる」ことのむずかしさ

坪尻駅に停車する普通列車は、1日わずか6本です。阿波池田行きが午後に3本、琴平方面行きが午前に2本・午後に1本。

時刻表に載っている普通列車でも、坪尻駅を通過してしまう列車があります。なんでやねん。
阿波池田から琴平方面への普通列車は時刻表上1日6本、逆方向も6本あるにもかかわらず、実際に坪尻に停まる列車は1日6本しかない。これが坪尻の「ヤバさ」のひとつです。

さらに問題があります。大抵の停車列車は停車時間がほんのわずか。ドアが開いて、数分で発車してしまいます。降りるだけなら間に合いますが、駅を探索する時間はほぼありません。

ところが——阿波池田7:58発の琴平行普通列車だけが、坪尻駅に14分間停車します。

これは特急列車の通過待ちのためです。14分あれば、この超秘境駅を調査するには十分な時間……のはず。これを逃す手はありません。


時刻表の穴を突いて、高松を出発する

早朝6:08、高松発のマリンライナー6号に乗り込みます。6:22に坂出着。ここで6:25発の琴平行に乗り換え。6:54に琴平着。

琴平では跨線橋を急ぎ足で渡り、6:58発の阿波池田行に、なんとか飛び乗りました。

……しかし、この6:58発の阿波池田行は、普通列車にもかかわらず坪尻駅を通過してしまいます。なんてこった。こんなの普通じゃねえよ。

仕方なく、通過する坪尻駅を車窓から横目で眺めながら、そのまま阿波池田へ。7:48、阿波池田着。

ここで少々アクロバティックな行動に出ます。阿波池田駅で切符を渡して改札を出て、すぐに別の切符で再び改札を通って引き返す——という、駅員さんに怪訝な顔をされること請け合いの行動です。実際に怪訝な顔をされました。

狙うのは、7:58阿波池田発、琴平行の普通列車。これが、坪尻駅で14分停車する、唯一の列車です。


【重要】途中下車のルールを守ること

坪尻駅のホームに降りること自体は、乗車券を持っていれば問題ありません。しかし、改札外(駅の外)に出るには途中下車できる乗車券が必要です。

今回筆者は、高松〜阿波池田の切符で阿波池田まで来て、そこで一度改札を出た後、阿波池田〜松山の切符で再び乗車しました。片道101km以上の普通乗車券は途中下車が可能なため、坪尻駅で駅の外に出ることができます。
(切符自体は、e5489で予約して高松駅で購入済)

青春18きっぷも途中下車可能なので、坪尻訪問との相性は抜群です。一方、短距離の乗車券や途中下車不可のきっぷでは、ホームには降りられても駅の外には出られません。訪問を計画される方は、事前にきっぷの種類をよく確認してください。


運転士さんとの、ちょっとした縁

7:58、阿波池田を出発。車内はガラガラです。

坪尻で途中下車する旨を伝えるためにワンマン運転台へ向かうと——なんと、さっき琴平から阿波池田まで運転してきた運転士さんと同じ方でした。折り返してまた琴平まで運転するそうです。

「坪尻の停車中に外へ出て、この列車で琴平まで乗っていきたいんですが」と告げると、運転士さんは快く了承してくれました。ありがたい。

次の佃駅で、制服姿の学生が数人乗ってきました。夏休みに制服とは、おそらく部活でしょう。その学生たちは、次の箸蔵駅でみんな降りていきました。残った乗客は、私を含めて3名ほど。

箸蔵の次は、いよいよ坪尻です。


トンネルを抜けると、そこは坪尻だった

箸蔵駅を出ると、列車がトンネルに入ります。

トンネルを抜けると——坪尻駅でした。

「特急通過のため、しばらく停車します」という車内放送が流れます。私は放送を聞きながら、ドアが開いた瞬間にホームへ降り立ちました。

現在時刻:8:15。発車時刻:8:29。14分間の秘境探訪、開始です。


坪尻駅、14分間で見たもの

まず、周囲を見回します。

山しかない。

民家はありません。コンビニも自販機も道路もありません。あるのは山と、ホームと、木造の駅舎だけです。木造駅舎はJR四国管内で唯一の純木造駅舎として現存しており、その素朴な佇まいが秘境の雰囲気をいっそう高めています。

駅舎から出ると、「マムシに注意」の看板があります。……誰が立てたんだ、この看板。そしてどれだけリアルな警告なのか。かつてこの駅は川筋を変えて川底を埋めて作られた場所であるため、マムシが出るのも納得です。草むらには近づかない方が良さそうです。

踏切があります。ただし第4種踏切、つまり遮断機も警報機もない、最もシンプルな踏切です。棒を押して線路を渡ります。渡った先に廃屋が1件。

山の中腹を県道が通っているらしいのですが、木々に遮られて、はっきりとは見えませんでした。

戻ってホームで待っていると、轟音とともに特急列車が通過していきました。特急南風1号、高知行き。本線をそのまま駆け抜けていきます。スイッチバックの引き込み線には入らず、坪尻など知らぬ顔で疾走していく特急の姿は、なんとも対照的です。

まだ発車まで時間があったので車内へ戻ると、今度はまた別の特急が通過していきました。特急南風4号、岡山行き。こちらも爆速で通過。

2本の特急をやり過ごし、8:29。発車の時刻です。


スイッチバックを体感する

発車すると、まず列車は阿波池田方向(来た方向)へ逆走します。ホームを離れ、本線を横切って引き込み線へ。そこで一時停止。

運転士さんが反対側の運転台に移動します。

そして今度は琴平方向へ前進。本線に合流して、讃岐財田を目指して走り出します。

このスイッチバックの動き、乗っているとなかなかに不思議な感覚です。来た方向に一度戻って、また別の方向へ走り出す。鉄道の物理的な限界を、手作業のような手順で乗り越えていく、どこか人間的な操作です。

そして、長~いトンネルに入ります。国境のトンネルと言えなくもないですね。阿波から讃岐へと通り抜けます。


この列車は、いつまで走るかわからない

今回、坪尻駅で列車を降りたのは筆者だけでした。この「14分停車する列車」は、坪尻駅を実際に探索できる唯一の定期普通列車として鉄道ファンの間でよく知られています。

ただし、このダイヤがいつまで続くかはわかりません。ダイヤ改正のたびに、この列車が消える可能性はあります。JR四国の路線は利用者数の減少が続いており、ダイヤの見直しが行われるたびに列車の本数が減ったり、停車駅が変わったりしています。

坪尻駅に降り立ちたいなら、行けるときに行く。それが正解だと思います。


坪尻駅訪問ルートまとめ(2026年7月実績)

時刻行動
6:08高松発 マリンライナー6号
6:22坂出着 乗り換え
6:25坂出発 琴平行普通
6:54琴平着 乗り換え(跨線橋を急ぐ)
6:58琴平発 阿波池田行普通(坪尻は通過)
7:48阿波池田着 改札を出て、別の切符で再入場
7:58阿波池田発 琴平行普通(坪尻に14分停車)← これが目標列車
8:15坪尻着 探索開始
8:29坪尻発 スイッチバックで琴平方面へ

※ダイヤは変更になる場合があります。必ず最新の時刻表をご確認ください。


坪尻駅 基本情報

項目内容
路線JR土讃線
所在地徳島県三好市池田町白地字萩原
標高272メートル
駅構造単式ホーム1面1線・スイッチバック式・地上駅・無人駅
開設1929年(昭和4年)信号場として開設/1950年(昭和25年)駅に昇格
無人化1970年(昭和45年)
停車列車1日6本(普通列車のみ/特急は全列車通過)
駅舎JR四国唯一の純木造駅舎
周辺民家なし・車道なし・マムシ注意

旅のお供に

こういう秘境駅探訪の旅には、いくつか持っておきたいアイテムがあります。

日本時刻表(またはスマホアプリ)

坪尻のような秘境駅を攻略するには、時刻表の熟読が必須です。スマホアプリも便利ですが、紙の時刻表で俯瞰してルートを考える楽しさも格別です。

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モバイルバッテリー

山中の秘境駅では当然ながら充電できません。一日中乗り継ぎを繰り返す旅では、モバイルバッテリーは必携です。

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虫除けスプレー

マムシ注意の看板があるような山中の駅です。虫除けスプレーを持参し、草むらには近づかないようにしましょう。

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まとめ――14分間は、確かに足りた

早朝の高松から始まった長旅の末、たどり着いた坪尻駅での14分間。山しかなく、マムシ注意の看板があり、廃屋が1軒あり、第4種踏切があり、2本の特急が轟音で通り過ぎ、スイッチバックで列車が発車していく。

「何もない」を見に行く旅。でも確かに、何かがありました。

秘境駅好きでなくても、「時刻表の穴を突いて、誰も降りない駅に降り立つ」という体験は、旅の記憶に深く刻まれます。機会があれば、ぜひ一度、この列車に乗ってみてください。

※掲載の時刻・運行情報は2026年7月時点のものです。ダイヤ改正により変更になる場合があります。必ず最新の時刻表でご確認ください。

Post date : 2026.08.07 13:00