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世界最長の海底トンネルとして知られる青函トンネルと、四国への最短ルートとなり得る紀淡海峡の架橋構想。

この二つの海峡が辿った運命を分けた最大の理由は、**「需要と採算性」だけではありません。特に青函トンネルには、「国土強靭化」と並ぶ、極めて重要な「軍事・防衛上の必要性」**という国家的な大義が存在しました。

今回は、この二つの海峡の運命を分けた、計画の背景と**「軍事・防衛」**という決定的な要素について分析します。


1. 🚄 青函トンネル実現の背景:3つの国家的大義

青函トンネルの建設は、単なる利便性の問題ではなく、**「絶対に必要」**とされる3つの重い使命を背負っていました。

① 安全保障と国土の一体化(防衛上の重要性) 🚨

これが、採算性を超える最大の理由の一つでした。

  • 不安定な海上輸送: 冷戦時代、津軽海峡を挟む連絡船は、天候や海象に左右されるだけでなく、有事の際には真っ先に攻撃目標となります。海上輸送が断たれた場合、北海道は本州から孤立し、防衛能力を維持することが極めて困難になります。
  • 物資・人員の安定輸送: トンネルという形で安定した陸上輸送路を確保することは、有事の際の自衛隊の緊急展開、兵站(物資補給)、そして民間物資の確保といった防衛上の観点から、絶対に譲れない国家の安全保障上の課題でした。

② 決定的だった「洞爺丸事故」(安全の悲願)

1954年の洞爺丸事故は、青函連絡船による輸送の不安定さと危険性を国民に強く認識させ、安全な陸上輸送路を確保する**「国家的な悲願」**を決定づけました。

③ 北海道開発と新幹線網の整備

戦後、北海道の産業振興と開発は国策の柱の一つでした。青函トンネルは、北海道を日本の大動脈に組み込み、新幹線を北海道まで延伸させるという**「日本全国を新幹線で結ぶ国家的な長期計画」**に不可欠な存在でした。


2. 🌉 紀淡海峡が「幻のルート」で終わる理由

紀淡海峡ルート(紀淡連絡道路)の構想は、青函トンネルのような**「国家の存立を左右する防衛上の必要性」「歴史的な大惨事による悲願」**も持ち合わせていませんでした。

① 経済合理性の不在と代替ルートの存在

紀淡海峡ルートが実現しない最大の理由は、**「経済的な採算性」「強力な代替ルートの存在」**です。

  • 強力な代替ルート: すでに神戸・鳴門間を結ぶ**「明石海峡大橋(神戸淡路鳴門自動車道)」**が開通しており、本州と四国を結ぶ自動車ルートが確立しています。
  • 採算性の低さ: 難工事が予想される高額な建設費用を投じて新しいルートを開通させても、既存のルートからの需要転換が限定的であり、経済的な採算性を証明することが極めて困難でした。

② 防衛・安全保障上の優先順位の低さ

紀淡海峡ルートの実現は、四国・関西地方の経済的な利便性を高めますが、防衛上の最優先事項ではありませんでした。

  • 四国は本州本土に近く、海上・航空ルートも比較的確保しやすい環境にあるため、有事の際に**「陸上ルートが途絶えると国土が分断される」という切迫した危機感**が青函海峡ほど高くなかったのです。

3. 📝 まとめ:国家的な大義と経済のバランス

津軽海峡と紀淡海峡の運命を分けたのは、突き詰めて言えば、**「国家的な大義と安全保障上の必須性」**という最も重い要素の有無です。

青函トンネルは、採算性を超えた**「国土の防衛と安全保障、そして国民の安全」**というマストな要件によって実現しました。

一方、紀淡海峡は、すでに存在する代替ルートがある中で、経済合理性防衛上の優先順位が低かったため、実現に至りませんでした。大規模インフラの実現には、経済的なメリットだけでなく、時に国家的な「夢」や「安全」という大義が必要不可欠であることを示しています。

Post date : 2025.11.28 11:04