主に旅について、それから色々
1950年代から1980年代にかけて、特定の航空会社が運航していた「世界一周便」は、空の旅の頂点を示す、まさに夢のような存在でした。
例えば、アメリカのパンアメリカン航空(パンナム)などが、自社便名と機材だけで、地球をぐるっと一周する路線を提供していました。
しかし、技術が格段に進歩し、航空ネットワークが世界中に張り巡らされた現代、このロマンあふれる「世界一周便」は、その姿を消してしまいました。
なぜ、航空会社は自慢の「世界一周ルート」を廃止してしまったのでしょうか?その背景には、技術革新と経済効率という、現代の航空ビジネスの冷徹な現実がありました。
かつての「世界一周便」は、同じフライトナンバー(例:Pan Am 001便)のまま、自社の機材と乗務員で、東回りまたは西回りで世界を一周するフライトを指していました。
冷戦時代、世界の空をリードしていた欧米の主要キャリアにとって、世界一周便は**「我が社の航続距離とサービスは世界をカバーできる」**という、ナショナルキャリアとしての威信を象徴する重要な宣伝ツールでした。
利用客にとっても、「パンナムの世界一周フライトに乗る」ということは、一種のステータスであり、大きなロマンでした。
ロマンに満ちた世界一周便が姿を消した最大の理由は、経済的な非効率性にあります。
かつてのジェット機は、現代の機材ほど航続距離が長くありませんでした。そのため、長距離を飛ぶには、燃料補給、乗務員の交代、機材整備のために複数の都市で頻繁に停車する必要がありました。
世界一周便は、この頻繁な途中降機(アイランドホッピング)を利用して、ついでに乗客を乗せ降ろししながら運航する構造でした。
ところが、現代のボーイング777やエアバスA350などの最新鋭機は、途中給油なしで15時間以上を連続飛行できます。
現代の航空ビジネスの主流は、巨大な拠点空港(ハブ)に旅客を集中させ、そこから効率よく目的地(スポーク)へ分散させる「ハブ&スポーク戦略」です。
現代の旅客が「世界一周」をしたい場合、世界一周便は存在しませんが、より自由で柔軟な方法があります。
航空会社は、単独で世界一周をする代わりに、スターアライアンス、ワンワールド、スカイチームといった巨大な航空連合(アライアンス)を組みました。
これにより、乗客は単一の航空会社に縛られることなく、好きな都市を巡り、最高のサービスを提供するアライアンスのフライトを自由に選べるようになりました。
かつての「世界一周便」は、航空会社が技術的制約の中で生み出した「ロマンの産物」でした。
しかし、航空機が進化し、経済効率が最優先される現代の航空業界では、そのロマンは**「非効率な運航」**として切り捨てられました。
「速く、安く、安全に」という現代の要請が、世界一周便という名の象徴的なルートを、現実的な「アライアンスによる世界一周航空券」へと進化させたのです。
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