むるむる ブログ

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それでも“次の一手”が静かに動き始めている

新幹線、TGV、ICE――
世界では高速鉄道が「当たり前の移動手段」になっている国が少なくありません。

ところが、世界最大級の経済大国・アメリカでは、
いまだに高速鉄道がほとんど普及していません。

なぜアメリカでは高速鉄道が根付かなかったのか?
そして、将来に可能性はあるのでしょうか。


結論から言うと

アメリカで高速鉄道が普及しなかった理由は、技術ではなく「国の成り立ち」と「価値観」にあります。

そして近年、
その前提条件が少しずつ崩れ始めています。


理由① 国土が広すぎる —— 距離感が根本的に違う

アメリカは、とにかく広い国です。

  • ニューヨーク〜ロサンゼルス:約4,000km
  • シカゴ〜ダラス:約1,500km

この距離では、

  • 高速鉄道:時間がかかる
  • 飛行機:圧倒的に速い

という構図になります。

ヨーロッパや日本のように
「都市と都市が300〜800km間隔で並んでいる」
という地理条件が、アメリカには少ないのです。


理由② 自動車と航空機の国だった

アメリカは、国家として

  • 自動車産業
  • 航空産業

を軸に発展してきました。

自動車社会の完成度が高すぎた

  • 高速道路網(インターステート)
  • 広い駐車場
  • 郊外型都市

👉
鉄道が入り込む余地がなかった

というのが実情です。


理由③ 鉄道は「民間貨物」が主役だった

ここが日本・ヨーロッパと決定的に違う点です。

アメリカの鉄道は…

  • 旅客より貨物が本業
  • 線路は民間会社の資産
  • 利益優先

そのため、

  • 高速旅客鉄道のための線路確保が難しい
  • 国が一気に整備する仕組みが弱い

👉
高速鉄道は「儲からない公共事業」と見なされてきた


理由④ 政治・予算・合意形成の壁

高速鉄道は、

  • 莫大な初期投資
  • 長期間の建設
  • 用地買収
  • 環境訴訟

が避けられません。

アメリカでは、

  • 州ごとに考え方が違う
  • 政権交代で方針が変わる
  • 反対運動が非常に強い

結果として、
計画が立ち消えになるケースが続出しました。


それでも、完全に「ゼロ」ではない

誤解されがちですが、
アメリカに高速鉄道が“まったくない”わけではありません。

代表例:北東回廊(アセラ)

  • ワシントンD.C.〜ニューヨーク〜ボストン
  • 都市が密集
  • 飛行機よりドア・ツー・ドアで速い場合も

👉
「条件が合えば、高速鉄道は成立する」
ことを示しています。


近年、風向きが変わりつつある理由

① 都市集中と渋滞・空港混雑

  • 大都市圏の空港は限界
  • 短距離航空便が非効率に

👉
中距離移動(300〜800km)に鉄道が再評価され始めた。


② 環境・脱炭素の流れ

  • CO₂削減
  • 航空機より環境負荷が低い
  • 電化との相性

高速鉄道は、
気候変動対策の切り札の一つとして注目されています。


③ 海外モデルの成功

  • 日本の新幹線
  • フランスのTGV
  • 中国の高速鉄道網

これらが、

「高速鉄道は現実的で、経済効果もある」

という認識を広げました。


将来の展望:アメリカ型高速鉄道とは?

重要なのは、
アメリカが日本型・欧州型をそのまま真似することはない
という点です。

実現しそうな形

  • 特定都市間のみ
  • 空港アクセスと一体化
  • 民間主導+政府支援
  • 完全新線(既存貨物線とは分離)

👉
「全国網」ではなく
“点と点を結ぶ高速鉄道”が現実路線。


高速鉄道は「国の価値観」を映す鏡

日本では、

  • 時間厳守
  • 公共交通重視
  • 国主導の整備

が、高速鉄道を育てました。

一方アメリカでは、

  • 個人の自由
  • 自動車文化
  • 民間主導

が、鉄道を主役にしなかった。


まとめ

アメリカで高速鉄道が普及しなかったのは、
失敗でも遅れでもありません。

それは、その国が選んできた合理的な選択でした。

しかし今、
都市構造・環境問題・移動の価値観が変わりつつあります。

アメリカの高速鉄道は、
「日本のようになる」のではなく、
アメリカなりの形で、静かに始まろうとしているのです。

Post date : 2025.12.16 01:04