むるむる ブログ

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不便は承知、それでも「備え」と「冗長性」「軍事」を優先した都市の思想

——欧米や日本とは何が違うのか?

モスクワには、なぜこれほど多くの空港があるのか。
そして、なぜそれらは統合されず、乗り継ぎも不便なままなのか。

実際にモスクワを経由したことのある人なら、一度はこう思ったはずです。

「これ、乗り継ぎ不便すぎないか?」

結論から言えば、その感覚は正しい
しかし同時に、その不便さは意図されたものでもあります。

モスクワの空港分散は、
欧米や日本とはまったく異なる国家観・都市観・安全保障思想から生まれたものなのです。


モスクワにある主な空港

現在、モスクワには国際線を扱う主要空港が3つ存在します。

  • シェレメーチエヴォ空港(SVO):北西
  • ドモジェドヴォ空港(DME):南
  • ヴヌーコヴォ空港(VKO):南西

これらは単なる「サブ空港」ではなく、
それぞれが国際線・国内線を担う独立した巨大空港です。


なぜ1つにまとめなかったのか?

理由① 国土が“異常に”広い国家だった

ロシアは世界最大の国です。

  • 東西:約9,000km
  • タイムゾーン:11

この国では、航空は「補助交通」ではなく、
国家をつなぐ生命線です。

モスクワは、

  • ヨーロッパ側ロシアの中心
  • 国内線・国際線の最大結節点

1空港集中では、
物理的にも運用的にも限界がありました。


理由② 冷戦時代の「軍事・安全保障」思想

ここが、最も重要なポイントです。

ソ連時代において、空港は

  • 民間インフラ
    ではなく
  • 軍事インフラ

でした。

一点集中は「即、壊滅」を意味する

  • 爆撃
  • ミサイル攻撃
  • テロ
  • 事故

あらゆるリスクに対し、

「一つ壊れても、都市機能が止まらない」

ことが最優先だったのです。

そのため、

  • 空港は都市を囲むように分散配置
  • 多くが元軍用飛行場をルーツに持つ

という構造になりました。


理由③ 「空港間乗り継ぎ」は想定外だった

モスクワの空港分散政策では、

  • 同一空港内で完結する移動
  • 放射型(地方 ⇄ モスクワ)の輸送

が前提でした。

つまり、

モスクワで空港を移動して乗り継ぐ

という発想自体が、
ほぼ考慮されていなかったのです。

これは欠陥ではなく、思想の違いです。


では、実際に不便なのか?

正直に言えば、不便です

  • 空港間移動に1〜2時間以上
  • 渋滞・降雪の影響
  • 荷物の再チェックイン
  • 乗り継ぎ保証が弱い

そのため現実的には、

  • 同一空港で完結する便を選ぶ
  • 航空会社を揃える(例:アエロフロート)
  • モスクワで一泊する

といった対応が取られています。


それでも分散を選んだ理由

ここで視点を変えてみましょう。

欧米・日本は「旅客の利便性」を最優先する

  • 乗り継ぎ時間
  • 動線の短さ
  • 商業性
  • ハブ&スポーク

これは、

  • 経済合理性
  • 利用者中心主義

に基づく思想です。


モスクワは「国家の生存」を最優先した

一方、モスクワは違います。

  • 有事でも止まらない
  • 攻撃されても機能が残る
  • 民間・軍事の転用が可能

つまり、

「不便でもいい。壊れないことが正義」

という思想。

これは、
冷戦を生き抜いた大陸国家ならではの合理性でした。


欧米・日本との決定的な違い

都市空港思想
東京利便性・効率重視
パリ集中+補助空港
ロンドン機能分散+鉄道接続
モスクワ分散・冗長性・軍事優先

東京やパリは、
「便利で速い」ことを最優先にします。

モスクワは、
「最後まで生き残る」ことを最優先します。


近年、思想は変わりつつあるのか?

はい、少しずつ変わっています。

  • アエロフロートのハブ集中
  • 空港アクセス鉄道の整備
  • 同一空港内での乗り継ぎ強化

ただし、

  • 空港間直結鉄道
  • 完全統合ハブ

といった方向には、
今のところ進んでいません。

それはつまり、
分散思想そのものは、今も有効と考えられている
ということでもあります。


まとめ:不便さは「欠陥」ではない

モスクワの空港分散政策は、

  • 計画ミス
  • 時代遅れ

ではありません。

それは、

  • 巨大国家
  • 冷戦の記憶
  • 軍事と統治を優先する思想

から生まれた、極めて一貫した都市設計です。

旅客にとっては不便でも、
国家にとっては合理的。

この違いこそが、

モスクワという都市が、
欧米や日本とはまったく違うロジックで作られている証拠

なのです。

Post date : 2025.12.17 16:52