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それは偶然ではない。戦略と合理性で選ばれた“国家仕様”だった

世界の鉄道を見渡すと、ひときわ異質な存在がある。
それが、**ロシアおよび旧ソ連諸国の「広軌鉄道」**だ。

ヨーロッパの多くが採用する標準軌(1,435mm)よりも明らかに広い、1,520mm
なぜロシアはこの軌間を選び、そして今なお変えないのか。

それは単なる技術選択ではなく、地理・軍事・経済を含んだ国家戦略そのものだった。


ロシアの鉄道軌間とは何か?

まず基本から整理しよう。

  • ロシア軌間(広軌):1,520mm
    (帝政ロシア時代は1,524mm)
  • 標準軌(ヨーロッパ・中国・新幹線):1,435mm
  • 日本在来線:1,067mm

ロシアの鉄道網は、世界でも最大級の路線延長と貨物輸送量を誇る。
その基盤となっているのが、この「広軌」だ。


なぜロシアは広軌を選んだのか?

① 帝国ロシア時代の設計判断

ロシアが本格的に鉄道を敷設し始めた19世紀、
ヨーロッパではすでに標準軌が広まりつつあった。

しかしロシアは、あえて同じにしなかった

理由の一つは、

  • 車両の安定性
  • 大型車両の導入余地

を重視した設計思想だとされている。

結果として、ヨーロッパと“わずかに違う”軌間が選ばれた。


② とにかく国土が広すぎる

ロシアの鉄道は、

  • 超長距離
  • 重貨物輸送中心
  • 直線区間が異常に長い

という特徴を持つ。

広軌は、

  • 車体を大型化できる
  • 積載量が増える
  • 長距離走行時の安定性が高い

という利点があり、
シベリア鉄道のような路線には非常に合理的だった。


③ 極寒という過酷な自然条件

ロシアの鉄道は、

  • −30℃以下
  • 凍上(地面が凍って持ち上がる)
  • レールの収縮

といった厳しい環境にさらされる。

広軌は、

  • 横揺れに強い
  • 不整地に対する許容度が高い

という点で、自然条件への適応という側面もあった。


④ 決定的に重要な理由:軍事と安全保障

そして、最も重要とも言われるのが軍事的理由だ。

軌間が違うということは、

  • 外国の列車がそのまま侵入できない
  • 補給線として利用しづらい

ということを意味する。

実際、第二次世界大戦の独ソ戦では、

  • ドイツ軍(標準軌)
  • ソ連(広軌)

の違いが、兵站に深刻な影響を与えた

つまり広軌は、

「鉄道インフラそのものが防衛線」

でもあったのだ。


現在も広軌を使っている国は?

ロシアだけではない。
旧ソ連圏の多くが、今も広軌を維持している。

主な国

  • ロシア
  • ウクライナ
  • ベラルーシ
  • カザフスタン
  • ウズベキスタン
  • トルクメニスタン
  • キルギス
  • タジキスタン
  • エストニア
  • ラトビア
  • リトアニア
  • フィンランド(1,524mm)

これは、ソ連時代に統一された巨大インフラの名残でもある。


軌間が違う国とはどう直通しているのか?

ロシア × モンゴル

  • モンゴルも広軌
  • そのまま直通

問題はない。


ロシア × 中国(標準軌)

ここで軌間の違いが発生する。

旅客列車の場合

  • 国境で 台車交換
  • 車両をジャッキアップし、ボギーを交換
  • 所要時間:数時間

代表例:

  • モスクワ〜北京国際列車

貨物列車の場合

  • 積み替えが主流
  • コンテナや貨物を別の貨車へ

理由:

  • 単純
  • 大量輸送に向く
  • 信頼性が高い

👉 貨物は効率優先、旅客はサービス優先


ドイツとの直通列車と「タルゴ可変軌間」

例外的な存在もあった。

モスクワ〜ベルリン直通列車

かつて、

  • スペイン・タルゴ社製
  • 可変軌間台車(Talgo RD)

を使った列車が運行されていた。

これにより、

  • 国境で停車せず
  • 走行しながら軌間変更

が可能だった。

ただし…

これは、

  • 高付加価値
  • 特殊用途
  • 限定路線

であり、広く普及する方式ではなかった

寒冷地での保守性、コスト、構造上の制約から、
ロシア鉄道全体の標準解にはなっていない。


まとめ:広軌はロシアの「思想」そのもの

ロシアと旧ソ連の広軌は、

  • 技術的合理性
  • 自然条件への適応
  • 軍事・安全保障
  • 欧州と距離を取る政治思想

これらが重なった結果だ。

軌間は、単なるレール幅ではない。

広軌とは、
ロシアがロシアであり続けるためのインフラ設計思想

なのである。

Post date : 2025.12.17 13:56