むるむる ブログ

主に旅について、それから色々

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「日本は航空技術が高い」
この言葉に異論を唱える人は、航空業界にはほとんどいません。

炭素繊維、精密加工、品質管理、安全思想――
ボーイングやエアバスの機体には、日本企業の技術が深く組み込まれています。

それなのに、です。

なぜ日本は“自前の民間ジェット旅客機”を世界で定着させられないのか?

この疑問は、単なる技術力の話ではありません。
そこには、歴史・産業構造・国家戦略の違いがはっきりと表れています。


日本は「飛行機を作れない国」ではない

まず誤解を解いておきましょう。

日本は、
飛行機を作れない国ではありません。

実際、

  • 主翼(ボーイング787の主翼は日本製)
  • 胴体構造
  • エンジン部品
  • 複合材(CFRP)
  • 精密アクチュエーター

といった航空機の“心臓部”を、日本企業は世界最高水準で担っています。

にもかかわらず、

  • 機体全体の設計
  • 機体の型式証明取得
  • 世界販売とサポート

となると、日本は急に苦しくなるのです。


航空機産業の本質は「技術」ではなく「認証と市場」

民間ジェット機は、
作れれば売れる商品ではありません。

最大の壁は、

  • 型式証明(Type Certificate)
  • 継続耐空性
  • 世界中での整備・部品供給
  • 数十年単位の運用責任

です。

これは「製造業」ではなく、
巨大な“運用ビジネス”です。


欧米メーカーは「国家ぐるみ」で航空機を育てた

アメリカ(ボーイング)

  • 軍用機・宇宙開発と民間機が一体
  • FAAという強力な国家認証機関
  • 世界標準を作る側

ヨーロッパ(エアバス)

  • 国を跨いだ政治プロジェクト
  • 各国政府が財政・外交で支援
  • 最初から「世界市場前提」

一方、日本はどうだったか。


日本は「完成機を作る国家戦略」を持たなかった

戦後の日本は、

  • 航空機開発が一時全面禁止
  • 再開後も「軍用機・部品中心」
  • 民間機は“海外メーカーの下請け”が主流

という道を歩みました。

結果として、

  • 部品は強い
  • 完成機の経験が蓄積されない
  • 認証と販売のノウハウが育たない

という構造が固定化されました。


国産ジェット機挑戦の現実(MRJ / SpaceJet)

三菱のMRJ(後のSpaceJet)は、

「ついに日本が民間ジェット機を持つ」

と期待されました。

しかし現実は、

  • 型式証明の壁
  • 設計変更の連続
  • FAA基準への適合の難しさ
  • 世界市場での販売体制構築

という“技術以外の地獄”に直面します。

結果、開発は凍結。

これは失敗ではなく、
日本が未経験の領域に本気で踏み込んだ結果、初めて見えた現実とも言えます。


日本が本当に強いのは「空を安全に飛ばし続ける技術」

ここで、視点を変えてみましょう。

日本が世界で圧倒的に評価されているのは、

  • 故障しにくい設計
  • 品質のばらつきの少なさ
  • 想定外を潰し込む安全思想
  • 長期運用での信頼性

つまり、

「空を飛ばす技術」ではなく
「空を安全に飛ばし続ける技術」

です。

これは、完成機メーカーにとって最も重要な価値でもあります。


では、日本は一生「完成機を持てない国」なのか?

答えは、NOです。

ただし、

  • 単独メーカーでの挑戦
  • 短期収益を求める開発
  • 技術力だけで勝負

では、再び同じ壁にぶつかるでしょう。

必要なのは、

  • 国家としての航空戦略
  • 認証・運用を含めた長期視点
  • 国際共同開発の中核を担う立場

です。


まとめ:日本は「遅れている」のではない

日本は、

  • 航空技術がない国ではない
  • むしろ安全・品質では世界最高水準
  • ただし「完成機ビジネスの土俵」に立つ経験が圧倒的に少ない

それだけの話です。

日本は「空を飛ぶ発明」をした国ではない。
だが「空を安全に飛ばし続ける技術」を完成させた国だ。

この強みをどう活かすか。
それが、日本の航空産業の次の問いなのかもしれません。

Post date : 2025.12.17 19:13