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なぜ近年、航空機の認証はここまで厳しくなったのか?

「最近、航空機の型式認証がやけに遅い」
「FAAが慎重すぎるせいで、新型機がなかなか飛ばない」

航空業界を追っていると、そんな声をよく耳にします。
では本当に、FAA(米国連邦航空局)は“厳しくなりすぎた”のでしょうか?
そもそも、FAAの技術基準とは何を根拠に作られているのでしょうか?

今回は、
FAAの認証基準の成り立ちと、なぜ近年ここまで厳格になったのかを、制度の中身から丁寧に解説します。


FAAとは何者なのか?

FAA(Federal Aviation Administration)は、

  • 米国の航空安全を担う連邦政府機関
  • 民間航空機・エンジン・装備品の設計・製造・運用すべてを管轄
  • 事実上、世界の航空安全基準をリードする存在

です。

アメリカの航空機は、世界中を飛びます。
つまり、FAAの判断ひとつがグローバル標準になってしまう影響力を持っています。


FAAの技術基準は「法律」で決まっている

ここが重要なポイントです。

FAAの認証基準は、

  • 役人の裁量
  • 政治判断
  • 企業との話し合い

だけで決まっているわけではありません。

根拠は「連邦航空法」

FAAは、

  • 連邦航空法(United States Code Title 49)
  • それを具体化した FAR(Federal Aviation Regulations)

に基づいて動いています。

代表的なのが、

  • FAR Part 25(大型輸送機)
  • FAR Part 23(小型機)
  • Part 33(エンジン)
  • Part 21(型式認証手続き)

これらは法令であり、FAAが勝手に緩めることはできません。


技術基準はどうやって作られるのか?

FAAはゼロからすべてを考えているわけではありません。

実際には、

  • 業界(メーカー)
  • 学術機関
  • 技術標準団体(SAE、RTCAなど)

と連携しながら、

  • 耐空性基準
  • 安全目標(Safety Objectives)
  • リスク評価手法

を積み上げています。

ただし最終判断は、必ずFAAが行う
ここが民間規格(ISOやSAE)との決定的な違いです。


かつてのFAAは「メーカー依存」だった

近年の厳格化を理解するには、過去の反省を避けて通れません。

ODA制度とは何か?

FAAは人手不足を補うため、

  • メーカー内部の技術者に
  • 一部の認証作業を委任する

ODA(Organization Designation Authorization)制度を導入しました。

効率は上がりましたが、
結果として「メーカー自己認証」に近い状態が生まれました。


転機:ボーイング737 MAX事故

737 MAXの連続事故は、

  • 設計
  • ソフトウェア
  • 運用
  • 認証プロセス

すべてに問題があることを露呈しました。

特に問題視されたのが、

  • FAAがメーカー説明を十分に検証しなかった
  • システム全体ではなく「部分最適」で評価していた
  • パイロット訓練や人間工学が軽視されていた

という点です。


ここからFAAは何を変えたのか?

事故後、FAAは明確に方針転換しました。

① システム全体で安全を見る

単一装置ではなく、

  • ソフト
  • ハード
  • 人間
  • 運用

を含めた統合的安全評価を重視。


② 「想定外」を前提にする

従来は、

  • 正常系
  • 想定故障

が中心でしたが、現在は、

  • 誤操作
  • 教育不足
  • 複合故障

まで含めた評価が求められます。


③ ODAへの監督を強化

「委任=丸投げ」ではなく、

  • FAA自身が深く関与
  • 独立検証を重視

する方向に変わりました。


なぜ今、認証が遅くなるのか?

理由は単純です。

  • 見る範囲が広がった
  • 要求される証明が増えた
  • FAA自身が責任を取りに行っている

つまり、

「安全側に倒れる」判断を、あえて選んでいる

のです。


FAAの基準はどこに置かれているのか?

結論として、FAAの基準は、

  • 「事故が起きない」ではなく
  • 「事故が起きても破局に至らない」

という思想に置かれています。

これは、

  • 軍用機のMIL規格
  • 欧州EASAのリスクベース設計

とも共通する、現代安全工学の到達点です。


まとめ:FAAは厳しくなったのではない

FAAは「昔が甘すぎた」ことを認め、
本来あるべき姿に戻った

と言う方が正確でしょう。

認証が遅いのは不便です。
しかしその裏側には、

  • 二度と同じ悲劇を繰り返さない
  • 世界の空を預かる責任

という、極めて重い覚悟があります。

Post date : 2025.12.19 11:02