鉄道発祥の地、イギリス。
そのイギリスで、日本の日立の鉄道車両が多く採用されているのを知っていますか?
🔹 背景:イギリス鉄道と時代の変化
- イギリスは19世紀から鉄道網を発展させ、鉄道の発祥地として世界に広がった国。産業革命期から鉄道が発展し、その後も幹線網・都市間輸送網の整備により「鉄道王国」となりました。
- しかし時代が進む中で、既存の車両の老朽化や輸送需要の変化(高速化、乗客増加、快適性の要求など)が起き、既存の古い車両・インフラでは “合理的な近代化” が必要になりました。
つまり、伝統ある鉄道網を維持発展させるには、「古くて重たい/非効率な車両」を刷新する必要があったのです。
🚄 日立が選ばれた理由 — 技術力と柔軟な設計、そして挑戦の歴史
✅ 1. 実績と信頼の積み重ね — “外国メーカー”ではなく“選択肢の本命”に
- 日立は、2005年にイギリスでの最初の大きな鉄道車両契約を獲得しました。これが、後に英国鉄道の大規模更新を担うきっかけとなったのです。
- それまで日本の鉄道メーカーが大ロットで欧州市場に乗り込むのは例が少なかったですが、日立は地道に駐在員を派遣し、規格の理解と現地対応を進めていました。これが信頼につながったようです。
✅ 2. 日本発の技術・設計思想を欧州向けに応用 — 「軽量アルミ構体」「柔軟運用」「ハイブリッド対応」
- 日立がイギリス向けに開発した鉄道車両(たとえば British Rail Class 800/801)は、日本の “A-train” 構体や軽量アルミボディの技術をベースに、英国の線路・運用基準に適合させた結果です。
- また、この車両は「電化区間では架線給電、非電化区間ではディーゼル発電によるハイブリッド運用(バイモード)」という柔軟な設計。これにより、旧来の電化・非電化入り混じるイギリス国内路線で、一本の車両で多様に使えるという強みがありました。
✅ 3. 現地生産とメンテナンス体制の構築 — “輸入車”ではなく“英国車両”としての受け入れ
- 日立は、英国ノースイースト地方のニュートン・アイクルフ(Newton Aycliffe)に組立工場を設立。2015年に竣工し、その後多くの英国向け車両(Class 800/801、通勤電車など)をこの地で組み立て、メンテナンス体制も整えました。
- これにより、「外国製の鉄道車両を丸ごと輸入してきて使う」という心理的/政治的なハードルが下がり、英国鉄道側としても受け入れやすくなりました。
🔧 どのような経緯で採用に至ったか — “入札と交渉の歴史”
- イギリスで最大規模の鉄道車両更新プログラムが、 Intercity Express Programme(IEP) です。古くなった車両群を一括置き換えるこの案件に、日立は「軽量・ハイブリッド対応・英国規格準拠」という提案で応え、2012年に落札されました。
- この契約は、英鉄道史上最大級の規模で、866両の製造と27.5年のメンテナンス契約が含まれていました。
- つまり、日立は「単なる部品供給者」ではなく、「英国鉄道の未来を支えるパートナー」として正式に選ばれたのです。
🎯 なぜイギリスは“自国製”にこだわらず、日本の車両を受け入れたのか?
考えられる理由を整理します:
- 国内メーカーだけでは対応しきれない更新量・費用:老朽車両の大量置換はコストも手間も大きく、国際競争力のある外国メーカーに頼る合理性があった。
- 日本製の信頼性・技術の高さ:軽量設計・メンテ性・ハイブリッド対応・快適性など、当時の英国の車両需要にマッチ。
- 現地生産+雇用創出という政治/地域配慮:輸入ではなく英国国内で車両を組み立てることで、雇用や地域経済にも貢献。これが受け入れの大きな決め手。
- 柔軟な運用と将来性:電化・非電化混在、線路の多様性、更新サイクルなどに対応できる“オールラウンド型”車両を求めていた。
つまり、単に「外国だから」とか「安いから」という話ではなく、「技術・運用・経済・社会」の多角的な合理性がそろっていたため、採用に踏み切った、ということです。
⚠️ ただし、課題や問題もある — 現代の“鉄道輸入”の難しさ
- 日立製の Class 800 系などでは、車体の亀裂問題が2021年に発覚し、一時運行停止となった例があります。構造と設計の複雑さ、新旧インフラのギャップなど、輸入/現地生産でもリスクはゼロではありません。
- また、欧州(特に英国)では鉄道安全規格や標準が日本と異なり、単なる“日本のまま”では通用しません。日立はこれに対応するため、構造設計から安全基準、乗務員の視認性、走行モードの多様性などを英国仕様で再構築しました。
- さらに、コスト、政治、産業保護、ローカルの既得利権など「鉄道とは社会インフラ」の性質ゆえの壁もあり、容易に“外部からの参入”ができるわけではない、という現実があります。
これらを乗り越えられたからこそ、日立は“例外”ではなく“成功例”として認められたのだといえます。
🗺️ まとめ:鉄道発祥国に日本の鉄道車両が受け入れられた、その必然
- イギリスは伝統と歴史のある鉄道国だが、時代の変化で既存インフラの限界に直面した
- 日立は“軽量・ハイブリッド・柔軟運用・現地生産”という複数の強みを持ち、それがイギリスの鉄道更新需要に合致した
- 国際入札を通じて正式に採用され、英国国内で大量の車両が運用されるようになった
- 成功は「技術力だけ」ではなく、「異文化・異規格を越える柔軟性」と「現地密着の姿勢」によるもの
✨ “日本の鉄道技術”が世界に通用する証 — そして問い直す価値
「鉄道発祥国」が、外国の技術を取り入れた」――この事実は、鉄道を「文化や伝統の象徴」だけでなく、「継続的に進化させるインフラ」として捉えることの重要性を示しています。
Post date : 2025.12.10 11:28