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エンブラエルはどうして“航空後進国”から世界3位メーカーになれたのか

「航空機産業」と聞いて思い浮かぶ国は、
アメリカ、フランス、ドイツ、イギリス、ロシア……
ブラジルを挙げる人は、正直少ないでしょう。

しかし現実には、

  • エンブラエル(Embraer)は
    ボーイング・エアバスに次ぐ“世界第3位の民間航空機メーカー”
  • 特に100席以下のリージョナルジェット市場では世界的覇者

なぜ、南米の新興国で、ここまでの航空機メーカーが育ったのでしょうか?


結論を先に言うと

エンブラエルの成功は「国の事情」「割り切った戦略」「軍用から民間への正しい転用」
この3つが奇跡的に噛み合った結果
です。


① 国土が広すぎるブラジルという“航空必須国家”

まず、ブラジルという国の事情です。

  • 国土面積:日本の約22倍
  • 都市間距離が非常に長い
  • 山岳・密林・未整備地域が多い

👉 鉄道や道路だけでは国が回らない

つまりブラジルは、

「飛行機を自前で作れないと、国が不便になる国」

だったのです。

これはアメリカやロシアと同じ発想で、
**航空機は“贅沢品”ではなく“国家インフラ”**でした。


② 出発点は民間ではなく「軍用機」

エンブラエルは、最初から民間旅客機メーカーではありません。

創業の背景

  • 1969年、ブラジル政府主導で設立
  • 空軍(FAB)の研究機関が母体
  • 目的は:
    • 軍用輸送機
    • 練習機
    • 国産航空技術の確立

代表例:

  • EMB-110 バンデイランテ
    • 軍民両用
    • 地味だが堅実
    • 未舗装滑走路でも運用可能

👉 「まず作れるものを、確実に作る」戦略


③ “大型機を狙わなかった”冷静な戦略

エンブラエル最大の成功要因は、ここです。

やらなかったこと

  • 大型旅客機(A320、737クラス)に手を出さない
  • ボーイング・エアバスと正面衝突しない

狙った市場

  • 50~120席クラス
  • 地方路線・短距離・高頻度運航
  • 大手メーカーが「儲からない」と見ていた市場

👉 誰も本気で取りに来ない場所を、全力で取りに行った

この割り切りが、世界的成功につながりました。


④ 世界で受け入れられた理由は「地味だが正確」

エンブラエル機は、よくこう評されます。

  • 派手さはない
  • 革新的でもない
  • でも:
    • 燃費が良い
    • 信頼性が高い
    • 運航コストが低い
    • 整備がしやすい

航空会社にとって重要なのは、

「かっこいい機体」より「毎日確実に利益を生む機体」

でした。

結果、

  • アメリカの地方航空会社
  • ヨーロッパのLCC
  • アジア・アフリカの新興国

に一気に普及します。


⑤ 国家と民間の“ちょうどいい距離感”

エンブラエルは一時期、

  • 完全民営化
  • しかし国家が一定の影響力を保持

という、非常に現実的な立ち位置を取っています。

  • 軍需・輸出は国家が後ろ盾
  • 民間機は市場原理で競争

👉 「国が口を出しすぎない」「でも見捨てない」

これは、
日本のMRJ(スペースジェット)とは対照的な点です。


⑥ 世界から見たエンブラエルの立ち位置

現在の評価はこうです。

  • ボーイング:大型・世界標準
  • エアバス:大型・効率重視
  • エンブラエル:地域路線の最適解

特にE-Jetシリーズは、

「このサイズなら、まずエンブラエルを検討する」

というポジションを確立しました。


なぜ“ブラジルだからこそ”成功したのか

皮肉ですが、結論はこうです。

航空後進国だったからこそ、夢を見なかった。
夢を見なかったからこそ、勝てた。

  • 技術的に無理な野心を持たなかった
  • 市場を冷静に選んだ
  • 国家の必要性とビジネスが一致した

まとめ

  • ブラジルは「航空機が必須の国」
  • エンブラエルは「軍用から堅実に育った」
  • 大型機に手を出さない戦略が成功
  • 地味だが信頼される機体を作り続けた
  • 世界市場で“唯一無二のポジション”を確立

最後に一言

エンブラエルは、
「航空機産業は“国の格”ではなく“戦略”で決まる」
という事実を、世界に突きつけたメーカーです。

Post date : 2025.12.22 15:20