むるむる ブログ

主に旅について、それから色々

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旅に興味を持ったきっかけを人に聞くと、なかなか面白いことになります。

「親に連れていってもらった旅行が楽しくて」という人もいれば、「友達に誘われてなんとなく」という人もいる。最近なら「旅系YouTuberの動画を見て」という人が多いかもしれません。でも私の場合は、本でした。しかも、まったく脈絡のない3冊の本との出合いが重なって、気づいたら旅に引っ張られていました。

深夜特急、十津川警部シリーズ、そして 電脳アジアコピー天国。

バックパッカーの聖典、鉄道ミステリー、アジアのコピー品市場レポート——共通点を探す方が難しい組み合わせです。でもこの3冊が積み重なって、私の「旅へのゲート」が開きました。


① 深夜特急――「自分も出かけられるかもしれない」という感覚

沢木耕太郎の『深夜特急』(1986年〜)は、著者が26歳のときに香港からロンドンまでをバスで旅したノンフィクション紀行文です。デリーを出発し、パキスタン、アフガニスタン、イラン、トルコ、ギリシャ、イタリアと西へ進み、ポルトガルのサン・ヴィセンテ岬を目指す。その後ゴールのロンドンへ。全6巻。

この本が「バックパッカーのバイブル」と呼ばれる理由は、スペクタクルな冒険を描いているからではありません。むしろ逆です。沢木耕太郎の独特の乾いた文体は、余計な感情の記述がなく、淡々と語られているにもかかわらず、その土地の空気、湿気や匂いというものまでを感じさせてくれます。

「読み進めるうちに、著者の旅が自分自身の旅のように感じられてくる」という感覚、これは『深夜特急』に固有の魔法だと思います。旅の指南書でも、観光ガイドでも、冒険記でもない。ただ一人の人間が移動して、見て、感じたことを書いただけ。なのに読み終えると「自分も出かけられるかもしれない」という根拠のない確信が生まれています。時代が違うのに伝わってくる凄さ。

沢木耕太郎が旅に出た1970年代と現在では、世界の姿は大きく変わっています。アフガニスタンもイランも、今では簡単には渡航できません。でも不思議なことに、この本の「賞味期限」はなぜか切れません。旅への衝動は時代を超えるのか、それとも不便で不確かな旅の本質が普遍的なのか。

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② 十津川警部シリーズ――時刻表と旅情という「鉄道の地図」

西村京太郎の十津川警部シリーズは、累計1億部を超える日本最大規模のミステリーシリーズです。テレビでもおなじみですね。

このシリーズが旅への興味と結びつくのは、ミステリーとしての面白さに加えて、「日本全国の景色が次々と登場する」からじゃないかなと思っています。北海道の流氷、九州の特急列車、山陰の温泉地、瀬戸内の渡し船… 十津川が事件を追って移動するたびに、日本の各地の情景が描かれます。

西村京太郎が先駆けとなった「トラベルミステリー」というジャンルは、ミステリーと旅情を融合させたもので、時刻表のトリックが解決の鍵になることも多い。「なぜか私たちは夜行列車に郷愁に似たものを感じる。夜の闇を引き裂いて疾走する列車に、一夜を共にする乗客は、ある種の連帯感を持つ」と西村京太郎は記しています。

このシリーズで旅に引きつけられた人の特徴は、「実際に行ったことのない場所の名前を知っている」という点だと思います。石見銀山、木次線、九州の或る場所… 十津川が捜査で訪れた土地が、頭の中の「旅の候補地リスト」に自然に積み重なっていく。ミステリーを読んでいるつもりが、いつの間にか「旅の予習」をしているという感覚です。

今回の四国旅行で坪尻駅を目指したとき、「時刻表の穴を突いて列車を乗り継ぐ」という攻略法を自然に考えていたのも、十津川警部シリーズで何冊も読んだ「時刻表トリック」の影響があったかもしれません。犯人がアリバイのために時刻表を使うなら、旅人が移動手段のために時刻表を使ってもいいじゃないですか。ある youtuber は、飯田線と中央西線を使ったトリックを動画で再現していました。結構面白かったです。

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③ 電脳アジアコピー天国――「知らない場所」への純粋な好奇心

3冊目は少し毛色が違います。「電脳アジアコピー天国」。

これはアジアの都市にかつて存在した、コピー品・海賊版・模倣品の市場をレポートしたノンフィクションです。タイ バンコク、マレーシア クアラルンプール、香港 ——「本物とコピーの境界線」が溶けていくアジアのカオスでグレーなマーケットを、ライター視点で描いたものです。今やコピーソフト市場なんてものは無くなっていると思いますが。

正直なところ、旅の本というより、「アジアのかつての混沌」を表した本です。でも読んでいると、妙に気になってくる。ガイドブックには載っていない場所。観光地ではない、微妙に裏に近い匂いのする場所。現地のヲタクな人々が行き来するマーケットの妖しさ… そこに「自分も行ってみたい」という感情が動き始めます。

旅への引き金が「観光地に行きたい」ではなく「本にある混沌と雑然が折り重なった場所を、自分の目で見てみたい」という形で生まれることも、旅好きにはあるかと思います。電脳アジアコピー天国はまさにそのタイプの本でした。「こんな世界があるのか」という純粋な驚きが、「見に行く」という行動への欲求に変わる。旅の動機として、これは実はとても強力なものです。

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本が旅の「予告編」になる理由

この3冊に共通しているのは、「旅行ガイドブックではない」という点です。

ガイドブックは「情報」を提供します。この店がおいしい、この時間に行くと空いている、このルートが効率的… それは役立ちますが、旅への衝動を生むものではありません。

一方で深夜特急は「感情」を伝えます。十津川警部は「実在する(した)場所や列車の存在」を教えます。電脳アジアコピー天国は「好奇心」を刺激します。どれも直接「旅に行け」と言いません。でも読んだ後に、なにか行動したくなる。

本が旅の「予告編」として機能するとき、それはガイドブック的な情報提供ではなく、「その場所・その体験・その感情への欲求」を先に読者の中に植え付けるからだと思います。


今の時代、YouTuberが「本」の役割を担っている

今の若い世代に「旅に興味を持ったきっかけは?」と聞くと、旅系YouTuberの名前が出てくることがあるかもしれません。

旅系YouTuberの強みは「映像」の臨場感です。その土地の音、色、動き——文章では伝わりにくいものが伝わります。一方で本の強みは「内面」の深さです。沢木耕太郎が旅の中で何を考え、何を感じ、どう変わっていったか——映像では伝わりにくいものが伝わります。

どちらが優れているという話ではなく、「旅への入り口はいくつもある」という話です。本でも、動画でも、友人の話でも、偶然目にしたポスターでも、入り口は関係なく、そこから一歩踏み出すかどうかが全てです。


旅と本の相互作用

今回の四国旅行でも、車窓を流れる景色を眺めつつ、読んだ内容が、目の前の景色と重なることが… 十津川警部がかつて乗った列車の路線を、今自分が乗っているかのような。

きっと、今のアジアにはコピーソフトなんて売ってないのでしょうけれど、かつてそういうマーケットだった場所では、今はどんな商売が営まれているのか?ちょっと気になったり…
具体的には、シンガポールのシンリンスクウェアとかね。シンガポールのようなやたらと治安が良くて、なにかと罰金を科す国にあって、堂々とコピーソフトが店頭で売られていたという事実がオドロキではあります。

そういえば、旅行に行く計画もないのに、時刻表を買って眺めるだけで楽しかった記憶もあります。もはや旅の計画を立てる時は、スマホで乗換案内ばっかり見ていますが...

あなたが旅に興味を持ったきっかけは、何でしたか。


旅の前に読みたい本、旅の後に読みたい本

旅に出たくなる本

👉 深夜特急(沢木耕太郎)(Amazon) バックパッカーのバイブル。読むと移動したくなる。

👉 十津川警部シリーズ(西村京太郎)(Amazon) 日本全国を列車で旅する気分になれるトラベルミステリー。

列車の中で読みたい本

👉 旅と鉄道(Amazon) 乗り鉄・旅好きのための雑誌。列車の中で読む至福。

旅を記録したくなった人に

👉 トラベルノート・旅行記録帳(Amazon) 旅先でのメモを残す習慣は、後で読み返すと宝物になります。

旅の計画に

👉 時刻表(Amazon) 思わぬ列車や行先に出会う事もあります。

👉 旅の計画(Amazon) 旅の成功は計画から。


まとめ

深夜特急が教えてくれたのは「移動すること自体に意味がある」ということ。
十津川警部が教えてくれたのは「日本にはまだ知らない場所がいくらでもある」ということ。
電脳アジアコピー天国が教えてくれたのは「ガイドブックの外側に本当の景色がある」ということ。

脈絡のない3冊でしたが、振り返れば全部、同じ方向を向いていました。「まだ見ていない場所へ行け」という方向です。

本棚を眺めて、旅に出たくなったことはありませんか。そういう本が1冊でもあるなら、それがあなたの旅のはじまりです。

Post date : 2026.09.28 22:24