むるむる ブログ

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アジアを代表する航空会社と聞いて、多くの人が思い浮かべる名前の一つがキャセイパシフィック航空(Cathay Pacific Airways)だろう。


しかし近年、「経営不振」「リストラ」「香港情勢の影響」など、ネガティブな話題で語られることも増えた。

それでもキャセイは、今なお世界有数の国際航空会社であり続けている。
その理由は、同社の成り立ち・地政学的ポジション・独特のビジネスモデルを知ることで、はっきり見えてくる。


キャセイパシフィック航空の誕生

「中国」と「イギリス」の狭間で生まれた航空会社

キャセイパシフィック航空は1946年、第二次世界大戦直後の香港で設立された。

  • 創業者:
    • ロイ・ファレル(アメリカ人)
    • シドニー・ド・カンツォー(オーストラリア人)
  • 当時の香港:
    • 英国統治下の自由貿易港
    • 中国本土と西側世界を結ぶ“窓口”

つまりキャセイは最初から、
「中国でもなく、欧米でもない、国際都市・香港の航空会社」
という立ち位置を宿命づけられていた。


香港という“最強のハブ”を最大限に活かした戦略

キャセイの最大の強みは、言うまでもなく**香港国際空港(チェプラップコク空港)**との一体運営だ。

地理的な強み

  • アジア主要都市から4~6時間圏内
  • 欧州・北米・オセアニアへの中継点に最適
  • 中国本土と世界を結ぶ玄関口

キャセイの戦略

  • ハブ&スポーク型を徹底
  • 地方都市 ↔ 香港 ↔ 長距離国際線
  • 乗り継ぎ品質を最重視(時刻設計・ラウンジ・接続性)

JALやANAが「日本発着」を軸にするのに対し、
キャセイは最初から“乗り継ぎ客が主役”の航空会社だった。


フルサービス航空会社としての完成度

キャセイは長年、サービス品質で世界トップクラスと評価されてきた。

機材運用

  • 長距離路線中心
  • ボーイング777 / 787、A350を主力
  • A380も導入(現在は整理・縮小)

サービスの特徴

  • 派手さより「実用性と洗練」
  • ビジネスクラス・プレミアムエコノミーに強み
  • 乗り継ぎ動線・ラウンジ設計が非常に合理的

いわば、
「ラグジュアリーではないが、使うと手放せない航空会社」
という評価を築いてきた。


香港返還後も続いた“半国際企業”という立場

1997年、香港は中国へ返還された。
しかしキャセイの立場は、単なる「中国の航空会社」にはならなかった。

なぜか?

  • 株主構成に英国系資本が残存
  • 香港の高度な自治
  • 中国本土航空会社(中国国際航空など)との棲み分け

結果としてキャセイは、

  • 中国本土とは距離を保ちつつ
  • 欧米との信頼関係を維持
  • 香港の国際金融都市としての役割を背負う

という、非常に難しいバランスを取ることになった。


LCCの台頭と、キャセイの苦悩

2010年代以降、アジアではLCCが爆発的に増えた。

  • エアアジア
  • スクート
  • 香港エクスプレス(※現在はキャセイ傘下)

問題点

  • 短距離路線の収益悪化
  • 価格競争への対応
  • 高コスト体質

キャセイは一時期、LCCを軽視していたが、
最終的に香港エクスプレスを買収し、グループ内で役割分担する方向に舵を切った。


コロナ禍と香港情勢という“二重苦”

キャセイ最大の試練は、2020年代に訪れる。

1. コロナ禍

  • 香港の厳格な入境制限
  • 乗り継ぎ需要の消滅
  • 機材の長期駐機

2. 香港の政治情勢

  • 国家安全法
  • 言論・経営への圧力
  • 経営陣の入れ替え

これによりキャセイは、

  • 大規模リストラ
  • 路線網の大幅縮小
  • 企業文化の変化

を余儀なくされた。


それでもキャセイは「終わらない」

では、キャセイはもう終わった航空会社なのか?

答えは NO だ。

再成長の要素

  • 香港空港のキャパシティ拡張(第3滑走路)
  • 中国本土の国際線回復
  • 長距離需要の復活
  • 貨物事業の強さ(世界有数)

特に**貨物部門(キャセイ・カーゴ)**は、

  • 半導体
  • 医薬品
  • EC物流

で今なお強力な競争力を持つ。


キャセイパシフィック航空とは何だったのか、そしてこれから

キャセイパシフィック航空とは、

  • 香港という都市の象徴であり
  • 東西を結ぶ空の交差点であり
  • 地政学に翻弄され続ける航空会社

だった。

そしてこれからは、
「香港が再び国際都市として輝けるか」
その未来と運命を共にする存在になる。

キャセイの復活は、
そのまま香港の復活を意味すると言ってもいいだろう。

Post date : 2025.12.24 23:34